萌えろ!合体美少女 茄子椰子

木の棒に時刻表だけを貼り付けたバス停で止まり、ボディに錆の浮いたバスの自動ドアが開く。 大きなバッグを持った三人の少女が、それぞれ料金を払いバスを降りる。 少女たちを残し、歴史を感じさせるバスは土煙を立てながら、ゆっくりと走り去る。 季節は夏…

巨大なフレアの中で、三人の美少女はそれぞれの精神の顕現された姿に生まれ変わる。 炎のような揺らめく赤い髪を流す、緋色の翼を持つ美少女が立つ。 あきらの、その内に秘めた情熱と可能性そのままの姿……NUSCOCONATS‐MarkⅡエクスパンシブだ…

九条有希は唯一の意識を繋ぎ、ルインの中で存在し続けていた。 《負けるもんか!!》 それは彼女の自我の中核を構成している想いだった。 統合された意識の集合体であるルインは、そもそも個体という概念を持っていなかった。 九条有希を食ったと言ったのも…

どこまでも青い空だった。 無限の広がりを見せるその空には、上下も方角も無いように感じる。 それでも、どこかに重力に似た物が存在するのだろう。自分はいま上を向いている浮かんでいる……那岐はそう感じていた。 「意識を集中しなさい」 キツイ響きを持つ…

NUSCOCONATS‐MarkⅡの三機のユニットは微妙にのんびりした速度で、金色の魔方陣に包まれた海を眼下に飛んでいた。 ノルンのハッキングにより『空飛ぶ黒猫亭』との通信が不可能な現在、ユニットは遠隔操縦を切られ、パイロットの三人娘による慣…

地球上から見ることの出来ない月の裏側……その深い影の中で、一本の糸が生まれた。 その黒い糸は生物のように捩れ、二つに折れると互いを求めるように絡み合う。 寄り添う二つの螺旋は再び二つに折れ、より複雑な組織を作り始める。 時を待たず、一本の黒い糸…

秋田県の山中、いまは国有林とされた不毛の大地を歩く男の姿があった。 吹き荒ぶ風が髪を乱し、巻き上げられた砂が頬を叩く。しかし、その男はただ前だけを見て歩き続ける。翻る白衣が男を引き止めるように、背後へと音を立ててはためいていた。 躊躇いを感…

大気摩擦で白熱するオレンジペコの中で、七瀬あきらは静かに目を閉じていた。 徐々に上がっていく機内の温度を感じ、このまま落ちていけば、機体が燃え尽きる前に中にいる自分が先に死ぬだろうと思う。 それも仕方なかった。この重力落下から抜け出すだけの…

薄闇の堕ちる部屋で、芽衣はひとり踊り続ける。風も無い部屋の中で巻き上がる紙片を追い、その指を伸ばし、たどたどしいステップで何度もターンを繰り返し……。 その指先が触れた紙片は泡と消え、部屋の片隅に積まれた他の紙片の上へと舞い落ちる。 「誰も………

中洲中尉が『空飛ぶ黒猫亭』のメインブリッジに入った最初の印象は……女性スタッフが多いな、だった。 ざっと見渡した感じ、男は中央に立ち中洲中尉と那岐美鈴を迎えた花房博士と、奥のオペレーター二人だけだった。女性は中央の三人に壁際の通信兵の少女を除…

机さえも無い、ただ広いだけの執務室で、花房博士は椅子に凭れ込んで、組んだ指で苛立たしげにリズムを取りながら天井を見ていた。 「……原因は何だ?」 独り言のような小さな呟きに、 「罪悪感でしょう」 他に誰もいない部屋の中で、氷のように冷たい響きを…

成層圏を戦闘速度で移動し、機動兵器の遥か上空に待機した『空飛ぶ黒猫亭』のメインブリッジで、男性オペレーターが叫ぶ。 「ゴーストサークル発生!」 それに重ね、花房博士が立つブリッジ後方より一段低いオペレーター席の中央に、三人で向かい合わせに座…

メインディスプレイがブラックアウトしたブリッジで、花房博士のヒステリックな叫びが響き渡る。 「何事だ!?何が起こった?NUSCOCONATS‐MarkⅡは!!?芽衣は、あきらは、九条君は無事なのか!?」 騒然とするブリッジの中で、オペレーター…

花房博士の説明には無かったが、三機のユニットは基本的に遠隔操縦されている。なので、無様な飛行を見せることなく三機は並列飛行で目的地に飛んでいた。 途中、その飛行を妨げないようにとの配慮からか、各航空基地から戦闘機が加わる。 先頭を行くオレン…

西暦2014年。 人類は、概念を物理的なエネルギーとする術を手に入れた。それにより、ある種の科学は過去と正反対の方向へ進み、また従来の科学もその恩恵を受け、画期的に発展しつつも低迷するというグダグダな状態に陥っていた。 そもそも、概念を物理…