第一日 夜
 
 
 月明かりだけの室内から、窓の外へと視線を移す。
 静かな夜だった。ときおり、獣の遠吠えだけが聞こえてくる。
「……何か見えるのか?」
 手に持った拳銃を弄びながら少年が訊いた。少年は拳銃から銃弾を抜き、一つ一つを試すように込め直す。古いリボルバー式拳銃だった。
「……別に」
 窓の方に視線を向けていた少年が答える。
 線の細い少年だった。少女のようにも見える風貌の中、その鋭い視線だけが性別を雄弁に語る……そんな少年だった。
「怪しいものは見当たらないよ。……奴等も今日は静かにしているみたいだよ」
「奴等、か……」
 少年の呟きは自重の響きを持つ。
「今日の夜から奴等は動けるんだろう?」
 窓辺の少年が振り向きながら拳銃を弄ぶ少年に訊いた。
「さあな、どうなんだろう。俺達のゲームの結果で変わるはずだけど……」
 拳銃に銃弾を込め終わり、銃を振りシリンダーを少年は戻す。
「結果、か。……じゃぁ、まだ動き始めていないのかな?」
「……かもな」
 窓辺の少年は静かに室内の少年の前に進む。進みながら少年はその室内に目を向ける。
 古い瀟洒な洋館の室内。そんな内装だった。趣味の良い壁紙に、最低限必要なだけの家具。……古い洋館を模したホテルの室内のようでもあった。
 天井には蝋燭を立てるシャンデリアが、今は火を灯されずにある。
「凝った造りだよ。空の銃弾もダミーで、見た目だけじゃ区別が付かないようにしてある」
 撃鉄を起こし、拳銃を渡しながら少年が言う。
「重さは?」
 少年は訊きながら拳銃を受け取る……と、返事を待たずにリボルバーのシリンダーを回す。
「同じだった」
 答えを聞き、微かに少年は嫌そうに顔を歪める。
「……確かに、全部実弾でも一緒かも知れないな」
 少年の顔からその思考を読み、拳銃を手にしていた少年が笑いを噛み殺し言う。
 その少年に拳銃を渡しながら、
「どっちから行く?」
 と窓辺に居た少年が静かに訊ねる。
 拳銃を受け取った少年の顔は……拳銃を差し出した少年と同じだった。まるで鏡を写したように二つの風貌が向き合う。
「俺は……昔っからクジ運が悪いんだよな」
 言いながら少年は銃口を耳のやや上に付ける。
「咥えたほうが確実じゃないか?死に損なっても予備の弾丸は無いんだぜ」
「お前は自分の咥えた拳銃で自殺したいのか?」
 聞きながら少年は引金を引く。……カチッと乾いた音が響く。
「それは……遠慮したいな」
 言いながら少年は拳銃を求める。
「それと……運の悪さは一緒だよ」
 軽く拳銃を撃ち、少年は諦めの混じった溜息と共に相手に渡す。
 
 そして、少年達はロシアン・ルーレットを続ける。
 
 
Guilty 〜汝は人狼なりや?