麦畑の錬金術師

第五話 風と羊飼い いつものように朝一番の空気を部屋に入れるため、私は屋根裏部屋の木窓を開きます。 その音に驚いた小鳥たちが、屋根から飛び立ち……すぐに戻ってきました。 ちゅんちゅんと鳴く声が、ちょっとうるさい気もしますが、まぁ朝の挨拶と思えば…

第四話 春の祈願祭 豊作祈願祭の当日、私は屋根裏部屋の窓が開かれる音で目を覚ましました。 「ふみゃ?」 頭からシーツを被ったまま、ぼんやりを身体を起こします。 窓際に、おばあさんがいつもの笑顔で立っています。 「あれ?」 私……寝坊しちゃいました?…

第三話 春の祈願祭 前夜 その昔、トーラ山の麓で、一人の旅人が道に迷っていました。 その旅人が大事に持っているのは、一房の麦穂です。 それは遥か北の大地で収穫された麦穂でした。 男はその麦穂を手に、新たな小麦の産地を求めて旅を続けてきたのです。 …

第二話 カッツェの想い 目を覚ますと……窓を開けるのも忘れて、私はガラス器具が端に寄せられた作業机の前に走り寄ります。 作業机には綺麗に洗われた木綿の布が広げられていて、その上には乳白色の小さな塊がいくつも並べられていました。昨日の夜、最後に見…

第一話 カシィ村のティサ 温められたミルクの匂いに目を細めながら、私は元気に下の部屋の扉を開きます。 「おはようございます」 「んむ。おはよう」 おじいさんはもう朝食を食べていました。 昨日の夜、今日は村の人とウサギ狩りに行くと言っていたので、…

序章 目を覚まして最初にするのは、自分の体温で暖められた干し草の匂いを楽しむことで……シーツを引き寄せ、その中に顔を埋めて、耳を澄ませます。 屋根の上の小鳥たちが鳴く声が聞こえるから、今日はきっと良い天気なんだろう。 ひょこっとシーツから顔を出…