J.o.k.e.r.s:裏

epilogue〜進藤古都葉の受難の始まり〜 短い入院中に、果歩と真奈美、それに理奈が立ち代り見舞いに来てくれたが、坂本は最後まで顔を見せなかった。 コースケが教えてくれたことだが、僕が舌を噛まないように口の中に入れていた坂本の指は食い千切られる寸…

進藤コースケ君の受難の日々:16 瞼を直撃する陽射しに僕はタオルケットを抱き寄せ……顔を埋める。けど、陽射しとは全く関係なく狂ったように鳴き続けるセミの声までは遮断できなかった。 まるで網戸に無数のセミがとまり、大合唱をしているみたいなうるさ…

進藤コースケ君の受難の日々:15 階下からお母さんが呼ぶ声が聞こえて、僕は薄いまどろみから戻ってくる。 今日は……いつだ? ぼんやりと枕元に置いていた携帯電話を取る。 八月二日。 そっか……今日は登校日か。 ベッドから身体を起こし、僕は無意識に左の…

進藤コースケ君の受難の日々:14 改札口でクトゥルフと別れ、僕は早足に駅ビルを出る。 果歩の脳に刻まれた記憶があれば、クトゥルフは問題なく森川果歩として生活を続けられると言ったので、僕はそれを信じることにした。もっとも、それを疑ったとしても…

進藤コースケ君の受難の日々:13 震える果歩の肩を抱きながら、僕はその瞬間に身構える。 学校の屋上、身近にプレイヤー……堕天使症候群の発動条件は揃っている。 フィールドの中で僕は殺され、果歩は屋上から飛び降りるだろう。 その運命を違えることは僕…

進藤コースケ君の受難の日々:12 激しい雨が降っていた。 雨粒が中庭に敷き詰められたレンガに落ち、砕け散る様まで見えていた。 風は無く、雨は真直ぐに降り注ぐ。 電気がショートし続けるような雨音を聞きながら、僕は……握り締めた拳で、図書館のロビー…

Intermission:03〜進藤古都葉のひとり○×計画〜 快感を押さえ込むように両膝を擦り合わせ、唇を噛んで声を殺しながら……びくん、と僕は背中を仰け反らした。 「んくっ……」 連続して襲ってくるその感覚に身体が震え、虚ろに開いた目から涙が零れる。 そして…

進藤コースケ君の受難の日々:11 三階から二階に降りるのには、エスカレーターではなく階段を使うことにした。エスカレーターの二階降り口が、一階との吹き抜けに繋がっていたからだ。 その階段の途中……デパート内に展開されたフィールドに微かなノイズが…

進藤コースケ君の受難の日々:10 聖少女機甲師団のリーダーを名乗る北条蓮美との協議の結果……戦闘開始は13:00で、場所は駅前のデパートと決まった。 このデパートという場所を提案したのは僕だった。パワードスーツみたいに、短時間でも空を飛べるヤ…

進藤コースケ君の受難の日々:09 ボクサーショーツと絆創膏二枚の軽装で、僕は自分のベッドの上で仰向けに転がっていた。 やられた。 それが僕の正直な感想だった。 僕は、クトゥルフと深遠なる者の諍いを完全に無視するつもりでいた。そして、それは可能…

進藤コースケ君の受難の日々:08 目覚めと共に驚愕があった。 「なんじゃこりゃぁ!!?」 と叫ばなかったのは、驚愕があまりも大きかったからだ。 夢じゃないのは確信できた。が、それでも信じられない出来事が自分の身に起こっていた。 さらり、と落ちる…

進藤コースケ君の受難の日々:07 シャープペンを栞代わりに参考書を閉じ、僕は両手で顔を覆い、机に肘を着いて溜息を吐く。 夏休みに入って一週間……朝から晩までべったりと引っ付いてくる果歩が友達と遊びに行って、ようやく得た一人の時間だった。 僕はこ…

進藤コースケ君の受難の日々:06 カッカッと黒板にチョークが当たる音を聞きながら、ぼんやりと窓の向こうに目をやる。 昼休みの後の……一日で一番眠い時間だった。 しかも、難解さでは学校一と言われる野阪の数学だ。いつものことながら、わざと理解し難く…

進藤コースケ君の受難の日々:05 体調を崩した果歩を家まで送ったせいで、帰りの電車の時間が大幅に狂っていた。っていうか、駅に着いたのが電車が出たすぐ後だった。 別に寄りたいところもなかったので、僕はフォームまで出て、そこのベンチに腰を下ろす…

Intermission:02〜森川果歩の一日〜 森川果歩の朝は、三個の目覚ましとの戦いから始まる……が、普通は最初の一個を止めると完全に目が覚めている。 その日も最初の一個のベルを止めると同時に起き上がり、残り二つの目覚ましをしっかりとした手付きで解除…

進藤コースケ君の受難の日々:04 苛立ちを隠さず、僕は果歩の手作り弁当を嫌々食べていた。 食べない。という選択肢は無かった。 それもこれも、いま目の前に座っている果歩のせいだった。 訳のわかんない勘違いの所為で、僕のことを恋人扱いし始めた果歩…

進藤コースケ君の受難の日々:03 電車の入り口近くで、ぼんやりと背中を凭れさせ、僕はじっと目を閉じていた。 もちろん、ジョーカーとして狩りをするためだ。 いまのところ、学校で僕のアームズの正体を知っているのは、坂本と果歩だけだが、このまま校内…

進藤コースケ君の受難の日々:02 僕は苦々しく思いながら、教室の自分の机の上に鞄を叩き付けた。 ざわざわと聞こえる声を無視して、荒々しく席に座る。 ちなみに、今の僕に「ろ」や「ど」や「ぼ」で始まる言葉で話し掛けてはいけない。 余裕でブチギレる…

Intermission:01 この数年で、新聞の紙面に『堕天使症候群』という言葉を見るようになった。しかし、これは正式な病名ではなく、その自殺体から得たインスピレーションを元に付けられた名前だった。 そう『堕天使症候群』は、十代の少年少女による突発的…

進藤コースケ君の受難の日々:01 唐突に周囲の雑音が消え、僕は立ち読みしてた週間マンガ雑誌から顔を上げる。 そのときには、すでにコンビニ内の他の客も店員の姿も消えていた。 「フィールド?」 小さく呟いたはずの声が、さして広くない店内に響く。現…