Intermission:01
 
 
 この数年で、新聞の紙面に『堕天使症候群』という言葉を見るようになった。しかし、これは正式な病名ではなく、その自殺体から得たインスピレーションを元に付けられた名前だった。
 そう『堕天使症候群』は、十代の少年少女による突発的な自殺のことである。
 ある者は自身の肉体を切り裂き、またある者はビルやマンション、学校から身を投げ……死に至っている。
 この現象――正式には病気とされていない――の特徴は二つ。
 一つは、突発的な自傷行為であること。
 もう一つは、その傷口から翼状の突起物を生やして死ぬことにある。
 いや、あれを翼状というのは欺瞞だろう。見間違いようのない、歪で醜い翼を傷口から広げた死体で、彼、彼女は発見されているのだから。
 未成年者の遺体であることから報道規制が引かれているが、それらの写真や映像はインターネットで簡単に見ることができるはずだ。
 そして、それらの死者が殺人ゲームの犠牲者であることを知るプレイヤーは、少なくはない。
 死までの三日間の猶予を使い果たしたジョーカーは、『堕天使症候群』を起こし、現実の世界での死を迎える。
 それはプレイヤーなら、知っていて当然の情報だった。
 しかし、この『堕天使症候群』は有史以前から続くものであることを知る者は……となると話が違ってくる。
 数世紀毎に繰り返される異神の宴。
 前回、『堕天使症候群』が猛威を振るったのは中世ヨーロッパだったらしい。
 百年に渡り、その『晩餐』は行われたそうだ。
 そう……僕にその話をした蛸女は、殺人ゲームを『古き神の如き者の晩餐』と言っていた。
 プレイヤーはその存在の『贄』となる感情を生み出す家畜であり、『壊れた時の場所』で殺し合う哀れな玩具だそうだ。
 幾重もの法衣を纏い、両の袖とその首筋から軟体動物の触手を垂らす女は、自らをクトゥルフと名乗り、ただ面白がるようにそれらを語ると……あっさりと僕の前から姿を消した。
 何故、クトゥルフが僕にそれを告げたのは知らない。知りたいとも思わない。
 化物同士の諍いに興味は無いからだ。
 ただ堕天使症候群で死ぬのは嫌だから、僕は自分以外の誰か他のヤツをジョーカーにする。……手段を選ばずに。