草稿……ってか、ボツ原稿ですね。
某アレの続きっていうか、最初からです。
 
 
 
 
   第?種接近遭遇。
 
 
 遅くなった時間を気にせず、僕はのんびりと自転車を走らす。もうすぐ日付けが変わるけど、それは僕が悪いんじゃない。こんな時間まで開いている古本屋が悪いんだ。
 人通りの無くなった住宅街を家路に急ぐ……いや、急いでないけど。
 今日は、夏休みの最終日だ。普通の愚民共は今頃、夏休みの宿題が終わらず、今日こそ世界が滅びればいいのにとか思っている事だろう。
 しかし、僕は夏休みの宿題を数日前に終え、余裕でこの夏休みの最終日を謳歌していた。
 派手に高笑いをしたいけど、そこは住宅街の事、僕は自重した。
 でも、明日から新学期か。憂鬱じゃないけど、面倒臭いな。
 ぼんやりと夜空を眺め、僕は思う。
 今日こそ、世界よ滅びろ。
 だって、明日から学校とか面倒じゃん。
 あの流れ星が地球に激突して、世界が滅びればいいんだ。
 僕は長く尾を引く流れ星を見ながら思う。思うけど、ちょっと長いな、あの流れ星。……って、あれ?
 僕は自転車を止め、夜空を……いや、徐々に大きくなる流れ星を見ていた。
 って、冗談じゃねえ!!僕は慌てて自転車をUターンして、強くペダルを踏み出す。
 脳裏には人工衛星激突の記事が浮かぶ。ってか、今日はそんな話なかったぞ。じゃ、隕石の墜落か?いやいやいや、それにしたってNASAとかから発表があるんじゃないか?
 僕は冷静に考え、墜落なんかあり得ないよな。と、背後を振り返る。
「って、堕ちてキタァァアアアア!!!?」
 大急ぎで自転車を出そうとして、派手にすっ転ぶ僕。あ、人生終わった。
 眩しい輝きに包まれ、僕はそう思った。これまでの人生が走馬灯になって……とか無かったけど、アレって都市伝説だっけ?いや、違う。人が死ぬときに、その人の人生の全て見るのが走馬灯のはずだ。その走馬灯がないんだから、僕は助かるんじゃないか?
 そんな事を考えている僕の目の前に、巨大な隕石もしくは人工衛星は地面に激突し、
 
 ドスッ
 
 意外と小さな爆発音を残した。
 道路のアスファルトをちょっと抉っただけで、その輝きは鎮座している。
 た、助かったのか?
 輝きの大きさと速度から予想した大爆発は無かった。巨大なクレーターも派手な陥没も存在していない。
 間違いなく僕は生きている。つまり、それはその……助かった、んだよな?
 僕は自分の無事を確かめ、それから周囲を見る。近所の家も無事だ。ってか、音を不審がって、窓を開け様子を窺う家も無い。
 そして、僕は……自分が無事と分かれば、次は堕ちて来た物に興味が湧いた。それは人として当然だと思う。そんな十七歳の好奇心は誰にも責められない。と僕は思う。
 僕は恐る恐る小さなクレーターとも呼べない地面の陥没へと顔を覗かせる。
 ゆっくりと立ち上がり、抉られたアスファルトの中心を見る。
 そして、そこに奇妙なものがあるのに気付く。
 黒い?黒くてなんか機械的なモノが動いている。やっぱ人工衛星か?
 僕がそう思ったとき、その黒いモノは触手のようなものを伸ばして来た。
「な!?」
 それは僕の右足に巻き付くと、しっかりとホールドするように掴んだ。
「ちょ、なにこれ???」
 と声に出す間こそあれ、僕は触手に引っ張られ、地面に転がされる。
 く、食われるのか?
「くそっ、冗談じゃねえ!僕は彼女の出来ないまま、ここで食われて終わるのか!??」
 僕は思わず思考がだだ漏れの言葉を発していた。いや、ちょっと、かなり混乱してます。
 そして、お約束の悲鳴をあげようとした瞬間、引っ張られる力が止まる。触手は足に巻き付いたままだけど、引き摺られはしなくなった。
 助かったのか?
 かなり近くなった黒い物体を僕は見る。生物には見えない。しかし、この触手を見ると生物のようにも考えられる。
 しかし、と僕は混乱したまま黒い物体を見る。
 と、目の前の黒い物体は、
「くぇrちゅいお魔あsdfghjkl」
 と囁いた。
「え?」
 それは聞き違えようもない言葉だった。意味不明だけど、意志を持って発せられた音……言語だった。
 僕の足を掴んだまま、それは繰り返す。
「くぇrちゅいお魔あsdfghjkl」
 意味が分かんない。ってか、不気味だ。言葉を発する度に、そのモノは四角い機械的な体を組み替えている。それは異世界のボディランゲージのようだった。
「くそっ、意味が分かねえよ!ってか離せよ!!」
「?」
 あ、今のは理解出来た。きっと疑問だ。
 見ているとそれは不規則に形を変え、組み変わり、姿を変えて行く。
「何なんだよ。離してくれよ。もうヤダよ」
 段々面倒になって、僕は地面に大の字に転がる。
 やっぱ世界は今日こそ滅ぶべきだ……僕以外は。僕は死にたくないので見逃して下さい。特に目の前の怪しい機械モドキには、そう頼みたい。
「ねえ」
 不意に響いたアニメ声に僕は顔を上げる。
 と、目の前に黒いふわふわとした猫のような物体がいた。か、可愛いのか?
 うさぎのように長い耳。でも、猫のように丸い顔。大きな金色の瞳。でも……脇腹から伸びた触手は、僕の足を締め付けてくる。今も痛いほど締め付け続けていた。
 そして、その正体不明の動物は小さな子供のような声で、
 
「ねえ、魔法少女になってよ」
 
 と、どこかで聞いた有名なセリフを口にした。
 いやいやいやいや、あり得ねえし、不可能だし。ってか、今は可愛い姿を取っているけど、間違いなく四角い不気味な物体だったろ、お前。
 その不気味な生き物は小首を傾げ、もう一度だけ同じ言葉を繰り返す。
「ねえ、魔法少女になってよ」
 僕は断固たる声でNOと言いたかった。けれど、声は喉から出掛かったまま、そこで止まる。
 断ると問答無用で襲い掛かってくるんじゃないのか?
 何も言わない僕の態度に、黒い生き物モドキは苛立たしげに舌打ちをする。
「チッ。何だよ、言語が違うのか?この地域の平均的言語は間違ってないはずなのになあ。もう、言語検索とか面倒臭いんですけど?」
 ……めっちゃ、ガラが悪そうなんですけど?いや、ってか、態度が悪い。後ろ足で耳の後ろを掻きながら「ぺっ」と唾を吐く振りする。
「いや、言語はあってると思うんだけど……」
 僕がそう言うと、生き物は真っ直ぐに立ち直し、可愛く小首を傾げて僕に尋ねてくる。
魔法少女、なってくれないかなぁ?」
 開いた口が塞がらないと言う表現が、これほどぴったり来るシチュエーションは滅多に無いと思う。いまさら可愛い子ぶっても後の祭りって言うか、遅いと思うんだが?
「ダメ、かな?」
 僕の気持ちを知っているのか、可愛く聞きながら、ギチギチと足を閉めて来る触手。可愛くお願いしている風で、それはこれ以上はないってほど脅しだった。
 断れば……死ぬ。
 しかし、この頼みはダメだった。僕は冷静に黒い生き物に答える。
「不可能だ。僕は魔法少女にはなれない。他をあたれ」
 ピクッと黒い生き物は頬を引き攣らせる。
「へ、へえ。それはどうしてかな?かな?
 どっかで聞いたフレーズを口にする生き物。ってか、さっきのもそうだけど、こいつ、実はサブカルチャーに滅茶苦茶詳しいんじゃないか?
 ヤンデレ風に小首を傾げている生き物に僕はきっぱりと言う。
「僕は男だ。よって魔法少女にはなれない。そもそも僕は『少女』ではない」
 小首を傾げたまま不思議生物は固まる。固まったまま何かを探すように後ろを見て、ゆっくりと僕に視線を戻す。
「え?」
「え?じゃねえよ!僕は男だって言ってるだろ!!離せよ、少女がいいならちゃんと女の子を捕まえろよ」
 僕は必死にそう言う。言いながら、足に絡んだ触手を外す。
「男の子?女の子?何それ???」
 性別の概念も無いのかよ!!
 外した触手はしゅるしゅると不思議生物の脇腹に戻され、見た目には何も無かったように胴体に同化する。
「とにかく!僕は魔法少女にはなれないからなっ!!」
 僕はそう言うと倒れた自転車を立て直し、サドルに跨る。
「あ、ちょっと……じゃ、女の子を紹介してよ」
 不思議生物が何か言っていたが、完全無視の華麗なスルーで僕は自転車を出す。
「じゃ、頑張れよ」
 口では頑張れと言いながら、僕はどっか遠くで頑張ってくれと心の中で願う。
 近所ではもう魔法少女とか探さないでくれ。そう言うのは東京とかもっと似合いの場所があるはずだ。
 そう教えた方がいいかと思ったが、二度と関わり合いになりたくない気持ちの方が勝った。
 僕は黒い不思議生物を残し、自転車で颯爽と家路に着いた。
 
 家に着いた僕は嫌な予感がして、背後を振り返る。が、もちんろ、そこには不思議生物も謎の機械生命もいない。
 と、そこで僕は首を傾げる。
 っていうか、僕は何から逃げてたんだ?逃げ……遅くなったから早く帰りたかっただけだっけ?
 ま、いっか。
 僕はポケットから鍵を出し、玄関に差し込む。
 仕事の忙しい両親は不在気味で、家事と一つ下の妹の世話をする代わりに、僕は少なくない小遣いと自由時間を与えられている。ぶっちゃけ、小遣い=生活費だけどね。
 生活費のやり繰りをして、余った分を翌月の小遣いに回す。今日、八月三十一日は僕の小遣い日でもある。今月は使い過ぎたから来月は節約しないとな。
「……ただいま」
 妹のスニーカーが並んでいるのを見ながら呟くように言う。
 この時間だから、もう寝てるか。
 ほとんど会話らしい会話をしない妹の顔を思い出しながら……思い出し、思い……そういや、長い間あいつの顔をまともに見てないような気がする。
 そんな些細な事を考えながら、僕は自室のある二階に足を運ぶ。
「……ふわぁ」
 ポケットからケータイを出し、時刻を確認する。数分前に日付けが変わっていた。さすがに眠いよな。
 僕は静かに階段を上がる。
 そんな僕は帰り道に出会った不思議生物の事をすっかり忘れていた。
 
 
   夕刻の告白と初登場。
 
 
 憂鬱だ。ってか、冗談じゃねえよ。僕は苛立ったように学生鞄を肩に担ぐ。
 夕刻の学校の帰り道だった。今日は九月一日だ。始業式の日だった。な・の・に、僕は夕方まで学校に拘束されていた。
 こんな時間になったのは、先生に頼まれてプリントの整理をやらされいたからだ。
 それはいい。ギリギリで許容範囲だと言えよう。しかし、その理由が……「夏休みの宿題が終わってるの東条君だけなのよ」では納得しろって言うほうが無理があるだろ!
 何だよ、それ。クラス中、僕以外は全員宿題を終わらせていないのかよっ!はい、その通りです。いや、マジで宿題を終わらせてるの僕だけなんだもんな。
 くそっ、愚民共め。ってか、長い夏休みの間、何をしてんだよ?いや、言わないでいい。聞きたくない。リア充の自慢なんて聞きたくない。思い出したくない。
 僕は忌まわしい記憶を自分の中から消すように頭を抱える。
 夏休みの間、アレをしただのどこに出掛けただのここって最高とかあのライブは一生の思い出とか海や山や映画館やコンサート会場とかコミケとか……聞きたくない。
 リア充、許すまじ!いや、お前達はリア充なんかじゃない。この愚民共め、貴様らはゆとりだっ!将来自分の置かれる立場に愕然とするがいい。そして、この僕の偉大さを羨望の眼差しで見るがいいっ!!
 くそっ、ぼっちが寂しいとかじゃないからなっ!
 僕は零れそうになる涙を、空を見る事で耐える。夕方の赤く染まった雲が歪んで見える。
 夏休みの宿題以上に、僕は大事な物を忘れていた気がした。
 僕は一度しかない高校二年の夏を無駄に過ごしてしまったのか?
 分からない。
 しかし、クラスのヤツらが楽しそうに夏の思い出を語っている姿を思い出し、僕は奥歯を噛み締める。
 すっと歪んだ空が普通に戻る。緩い風に頬がほんの少し冷たく感じる。
 そういや、何も無かった夏だったよな。
 何となく……全く意味も無く公園に足を向ける。センチになった訳じゃない。公園に来たからって、そこで出会いなんかあるはずがない。ただ、ちょっと疲れただけで……そんな行動に意味なんかある訳が無い。
 小さな公園に足を踏み入れ……ぞくっと身震いをする。
「え?」
 思わず、僕は声を漏らす。
 僕は背後を見る。が、もちろんそこには何も無い。気の所為か?
 何か途方も無く冒涜的な何かを感じたのだが……いや、まさかな。と、前を向いたそこに、
 完璧な美少女がいた。
 ドサッと学生鞄を落とし、僕は唖然とする。鞄を落とした事に気付かず、目の前の少女を驚きの目で見る。
 出会いは運命だったとか何とか言うのは聞いた事があったけど、そんな物はでたらめだと思っていた。大袈裟なウケ狙いの馬鹿な言葉だと思っていた。
 僕は彼女との出会いに運命を感じていた。
 しかし、いや、でも、待て、待て待て待て、冷静になれ。
 彼女が着ている僕の学校の女子の制服だ。
 こんな子がいたら噂になるはずだ。なのに、僕は今までそんな話を聞いた事がないぞ。
 転校生か?転校生なのか?夕方の公園で転校生が僕を待っていたのか?
 いや、僕を待っていたってのは無いか。あんまりジロジロ見るのも失礼だと気付いた僕は、美少女から視線を外し、落としていた鞄を拾う。
「くぇrちゅいおぱsdfghjklzxcvbんm」
 鞄を拾い掛けたポーズのまま、僕は固まる。どこかで、聞いた事のある言葉だった。言語とも言えない音。意志を持って発せられたその音を僕はどこかで聞いた事があった。
「くぇrちゅいおぱsdfghjklzxcvbんm」
 美少女は繰り返し、自分の言葉に気付いたようにはっと口元を白い手で覆う。
 呆然とする僕の前で、射殺しそうな視線で少女は後ろを振り返る。身振り手振りで背後に何かを伝える。誰か居るのか?
 少女の後ろを見ようとする。が、何かを隠すように少女は僕を向き直る。
「あ、あの……」
 と、鈴の鳴るような声を漏らす。そう、さっきの意味不明言語を喋っているときも、やたら可愛い声をしていた。いや、違う。今度は普通の日本語だった。
「あの、私と付き合って下さい」
 うん。あの意味不明言語は続いてたみたいだ。たまたま日本語っぽい音の並びだったみたいだ。だって、ほら日本語じゃないのに日本語に聞こえるってあるじゃないか。ヘンティカン・ヘンタイとか。
 はっはっはっ。何故か僕はとても悲しい夢を見たような気分になる。夕方の空を眺めて、風の冷たさを頬に感じる。
「あ、あの私の言葉が通じないのですか?」
「え?あ、いや、多分通じているよ。はは。大丈夫。明日はホームランさ」
 ビッと親指を立ててみせる。うん、ダメだ。 悲し過ぎて、もう何を言ってるか分かんないよ。
「東条達也様ですよね?」
 僕は名前を呼ばれて我に返る。え?言葉が通じてる?日本語なのか???ってか、美少女に様付けで呼ばれたよ。ここはどこのメイド喫茶ですか?
 良かったとか小さな呟きを漏らしながら、美少女はほっと胸を撫で下ろし笑みを浮かべる。
「東条達也様に、あ、あの、おね、お願いが……」
 日本語を喋っていると思ったのは間違いなのかってほどの咬みようだった。だけど、それはさっきの聞き違いと関係あるのかもと僕は微かな期待をする。
「おないないがあります!」
「は、はい!」
 うん。めっちゃ噛んでる。でも、僕もそんな余裕は無い。思わず、直立不動で姿勢を正していた。
「良かったら、これを読んで下さい」
 僕の前に差し出されたそれは……一枚の羊皮紙を巻いてピンクのリボンをした手紙だった。
「え?」
 僕と彼女の間で時間が止まる。
 これは、何だ?
ら、ラブレターじゃないよな?いや、展開的にはラブレターってのが一番可能性がありそうだけど、この見た目じゃ絶対にあり得ない。
 例え、この子がどこぞの深窓の令嬢だって、これはあり得ない。
 だって、羊皮紙ですよ?ナポレオンの親書よろしく赤いリボンが巻かれてるんですよ?
 ない。絶対にラブレターじゃない。けど、この子の表情は……と、僕は視線を前に戻す。
 美少女は恥ずかしそうに視線を外し、僕に渡そうとその手紙を出している。そう、まるで、好きだった同級生に告白するように!ラブレターを出すかのように!!
 どっちだ。どっちが正解なんだ!
 このまま手紙の形式を無視して受け取るのが正解なのか?
 彼女の存在を無視して、「人違いです」と立ち去るのが正解なのか?
 どちらが正解なのかは判らない。でも、僕はゆっくりと手を伸ばし、手紙を
 
「受け取っちゃダメ!!!」
 
 不意に掛けられた言葉に、僕の手はビクッと引き戻される。
 恐る恐る振り返ると、そこには制服姿の妹が立っていた。いや、何でまだ制服のままなんだ。
 とっくに家に帰り着いているはずで、着替えなんか余裕で終わってるはずなのに、いや、違う。何でここに、公園に妹がいるんだ?
「萌奈?」
 俯き叫んだまま妹は動かない。萌奈だよな?正直に言うと自分の妹のはずなのに、そこに立っているのが妹どうか自信がなかった。
 大人しいって言うか、あの臆病な妹が両足を踏み締め立っているのが変だった。ヒーローよろしく拳を握り締めているのも変だった。
「アイツだよっ。間違いない!クトゥルーだ!!」
 妹の後ろから飛び出すように小さな黒い獣が顔を出す。黒い……小さな、獣?
 記憶に奥に何かが引っ掛かる。そして、それは黒い獣の次の言葉を聞いて弾け飛ぶ。
 
――さあ、萌奈!魔功少女に変身するんだっ!!――
 
 激しい頭痛と共に雪崩のように昨日の夜の記憶が蘇る。
 黒い機械的な生物。足に巻き付いた触手。魔法少女になってよと言っていた黒い獣モドキ。墜落した衛星。砕けたアスファルト。引き摺られる僕。古本屋からの帰り道。大きな流れ星。
 時系列を無視した記憶の奔流の中で、僕は割れそうな頭を押さえたまま黒い獣を睨む。
「手前ェ、妹に……萌奈に何をしやがった!!?」
 自分では叫んだつもりだったけど、それは擦れた喘ぎにしかなってなかった。しかし、それでも通じたのか、黒い獣モドキは不思議そうな首を傾げる。
 背後を見て、誰もいないのを確認し、正面に向き直る。
「え?」
 白々しいにもほどがあった。頭を押さえたまま僕は獣モドキを睨み付ける。
「化け物めっ」
 吐き捨てるように口にする。が、その瞬間、横の美少女がビクッと怯えたように震えた。
「え?いや、でも……何で?記憶は消したはずなのに???」
 黒い獣モドキは妹の横で呆然としている。が、僕はその立ち居地が何故か無性に腹が立った。
「妹から離れろって言ってるんだ!化け物めっ!!」
 目の端で、ビクビクッと美少女が怯えたように震え、黒い獣モドキは素直に妹から離れる。
 妹に駆け寄り、獣モドキから引き離すように肩を抱く。
「萌奈、大丈夫か?」
 獣モドキを警戒しながら僕は妹に話し掛ける。しかし、俯いた妹はブツブツと呟きながら親指の爪を噛む。
「お兄ちゃんはあたしの物なのに。何よ、ちょっと可愛いだけじゃない。イカの化け物のくせに。あの姿だって本当の姿じゃない可能性だってあるじゃない。イカ臭い化け物め。イカ臭いイカ臭いイカ臭いイカ臭い……」
「……萌奈?」
 僕の声に気付き、萌奈はゆっくりと顔を上げる。
「もう大丈夫だよ。あいつはすぐに殺すから……すぐに挽肉して潰して殺して潰して殺して殺して殺して」
 うつろな瞳のまま呟く妹。ちょ、なに言ってるんだ?ってか、これは本当に妹なのか?
 ふらふらと俺の腕から離れ、妹はうつろなまま美少女に向かって歩いて行く。
 反射的に俺は黒い獣モドキを見る。しかし、獣モドキも萌奈の行動は予想外だったのか、こっちを見ながら怯えたように首を振り続けている。
 サシュッと砂を踏み、妹は小さな拳を握り締める。
 動かない。拳を握り締めたまま妹は動かない。いや、妹だけじゃない。
 俺も、小さな獣モドキも、美少女も動くことは出来なかった。
 それは敵の必殺技を待つ怪人とかの微妙に空気を読んだ空白タイムとかじゃなくて、純粋に『動けば殺られる』と感じていたからだ。
 そして……その時は来た。
 握り締めた拳を地面に打ち付け、萌奈は叫ぶ!
 
「お目覚め!!アザトース!!!waaaakkkeeee uuuuuuppPP!!!!!!!!」
 
 地面が砕け、舞い上がった砂煙がその姿を隠す。
 そして、その砂煙の中で闇が収束するように影が集まり、何かの形を造って行く。
 微かに見える砂煙の奥で、何かが、冒涜的な何かが少女のシルエットを形作って行く
 呆然と僕はその光景を目の当たりにしていた。っていうか、もう帰ってもいいですか?
 この場違い感が物凄いんですけど。それと同時に、すげぇ嫌な予感がするんですけど?
 マジでここにいたら不幸になるっていうか、もう一分一秒でも早くここから逃げろって魂が叫んでいるんですけど?
 と、同時に妹をこんな場所に残していたらダメだって気もしている。
 僕は
 
 
 
 
と、ここまで書いてボツにしました。
正直に言うと、悪ふざけが多過ぎます。
書くときは、真面目に書きましょうってのが、今回の件で俺が得るべき教訓だw