Act−001
 
 ゴールデンウィークも終わり、俺はぼんやりと窓の方に顔を向けていた。
 空を眺めていたってのもあるけど、横に座る泰葉をさり気無く無視していたのもある。そう、あくまでさり気無くだ。
 流れる雲を目で追いながら、昼飯の予定を考える。
 昼は……カレーにするか。しかし、時々カレーは胃に凭れるんだよな。昔からあるカレーに追い足しで毎日火に掛けてるから、当たり所が悪いと滅茶苦茶胃に来るんだよ。付いた渾名がロシアン・ルーレット・カレー。そのまんまなネーミングのカレーだが、学食の一番人気のメニューだったりする。
 カレーは、一日経ってからが一番美味い!
 それが開校以来、100年間追い足しで煮詰めてあるだから想像してもらえるだろう。
「ねえ……」
 美味いが、運が悪ければ、残るのは死体のみ。
「暇なんだけど……」
 ちなみに、ハズレを引くと一口目から解かるらしい。しかし、それがまた美味いそうだ。俺はまだハズレを食った事が無いが……痛っ!?
 いきなり頭をノートで叩かれた。しかし、音はしない。ノートの角が斜め45度でヒットしたからだ。周りにいる奴は反射的に目を背ける。って言うか、山崎の奴は笑いを堪えられずに噴出し先生にじろっと睨まれている。
「めっちゃ暇なんだけど」
「知らんってか、角は普通使わないだろ?」
「シャーペンの先より良いと思ったんだけど……それとも、こっちにが良かった?」
 泰葉がポケットからちらっと見せたのはステープルだった。
「最近観たアニメで格好良いシーンがあったんだよね」
「いや、ちょっと待て。そんな物をどうするつもりだ。って言うか、現実とアニメを一緒にするなよ」
「大丈夫。……アニメよりちょっとグロくなるだけだから」
「全然大丈夫じゃないだろ!」
 授業の邪魔にならないように小声で叫ぶ。
「それより……暇!」
「お前の暇なんか俺の知った事かっ!!」
「放課後、カラオケに行こう!映画でも可!あ、でも、今何してたっけ?」
「知らん!!って、スルーかよっ!」
 俺を無視した泰葉は、隣に前に座る女子の背中をシャープペンの先で突付き、映画の情報を聞き出している。俺は大袈裟に溜息を吐き、
「言っとくけど、俺は金が無いぞ」
 と、呟いた。
「へ?」
 不思議そうに目を剥いて泰葉は振り返る。
「どうして?あたしはどこにも連れてってもらってないよ」
「何でお前を連れ歩きゃなきゃならないんだ。普通に野郎と遊びに行ったから、もう金はないぞ」
「なんで?どうして?ゴールデン・ウィークはこれからじゃない」
 泰葉は泣きそうな顔でそう言った……が、ちょっと待て。今日は、五月十五日だ。
「お前は、日付も解からないのか?」
「はぁ?何を訳の分かんないこと言ってるの。これからがゴールデン・ウィーク本番じゃない。だって、今月一杯……」
 そして、泰葉は信じれられない事を言ってのけた。
「ゴールデン・ウィーク月間よ!!!」
 は?月間?それは今月一杯は遊び倒してOKって事で良いのか?しかし、俺は冷静に返した。
「いや、月間は無いだろう。それにウィークは週間だから、月間だと文法がおか……」
「だから、男は駄目なのよ!恋する乙女に取っては毎日がゴールデン・ウィークなの」
 誰が恋する乙女だ?
「だから、ゴールデン・ウィーク月間……ううん。違う。ゴールデン・ウィーク・ザ・イヤーなのよ!!!」
 拳を握り、力説する泰葉から窓に視線を向け、俺は雲の流れを見る。
 今日も平和だな。
「ちょ、無視?思いっ切り無視してるし!」
 ちなみに、今は古文の時間だ。俺にとっては解からない授業No.1だ。って言うか、眠くなる授業No.1なのに、腹が減って眠る事も出来ない。しかも、横は訳の解からん事ばっかり言う奴だし。何とかしてくれと叫びたい。
 
 泰葉はその後、俺への愚痴で女子達と盛り上がっていた。