第三日目 夜 1.
 
 
 霧の晴れた夜の風景を、僕は窓辺で見ている。日本式の建築と違い、二階の位置が高いのか、ここからは森の様子がよく見えた。
 月の冴える、色彩を無くしたモノトーンの世界。その世界で、時折思い出したかのように狼の遠吠えが響く。
 窓から室内へと視線を戻す。
 ベッドの上で瑠璃が静かに眠っている。部屋に戻った時のまま、瑠璃の様子は変わらない。
 足音を忍ばせ、僕はベッドに近付く。近付いて、彼女の顔を見る。
 安らかな、寝顔だった。
 小さな子供のような、何の悩みもないような、そんな寝顔をしている。
 ふと、僕は彼女にも恐怖や苦悩と言った負の感情があるんだろうか、と思った。
 だが、それは永遠に解からないだろう。
 彼女に聞けば、『ある』と答えるはずだ。それが自然な答えだからだ。
 用意された答え。準備された返答。予想内の質疑応答。
 彼女の中にあるのは……多分、そんなところだろう。
 彼女の顔から視線を外し、僕は背後を振り返る。振り返りながら……僕は自分の肩に手を置く。
 そこに鉄の感触があった。
 今は無い。
 そこに鉄を思わせる感触を残しているのは……瑠璃の手だった。瑠璃の、硬く冷たい掌だった。
 その肩に手を置いたまま、僕は思い悩む。
 これから……どうすればいいのか。
  
 再度の自己紹介の後、誰の顔も見ずに本田総司は呟く。
「やはり……ローラーだろうな」
 ローラー。現時点で『二人いる霊媒師を日を置かずに吊ってしまおう』と、本田総司は言っている。
「どちらが真なのかも試さずに?……それで人狼が吊れればいいけど」
 井之上鏡花の呟きに、本田総司は顔を上げる。
「狂人の騙りだと言いたいのか?」
 いえ、と井之上鏡花は小さく首を振る。
「どちらかは、人狼だと思うわ。ただ……」
 溜息を隠し、井之上鏡花は言う。
「これだと思考停止、じゃないのかしら?考えが無さ過ぎだと思うの」
「思考停止だとしても、人狼を確実に減らす事が出来るのなら、やる価値はあるだろう」
「そうね。そう……なら、お二人さんに自己弁護でもしてもらおうかしら」
 井之上鏡花の言い方に、ピクリと頬を引き攣らせたのは坂野晴美だった。引き攣らせた後に、無理矢理に薄い笑みを作る。その表情のまま、岡原悠乃を見て、嘲るように話し掛けた。
「自己弁護……じゃないかもしれないけど、言わせて貰いたい事はあるわ」
 岡原悠乃は坂野晴美の笑みを真っ直ぐに睨み付ける。
「私はあるけれど……あなたには、無いのかしら?」
 坂野晴美の目の奥には、嘲りが変わらずに篭っている。
「別に、無いです。ただ……」
 岡原悠乃は続けて言う。
「ローラーをやるんだったら、確実にその女……いえ、そこの人狼も吊って下さい」
 視線を真っ直ぐに坂野晴美に向けたまま、岡原悠乃は静かに言った。
「まるで自分が先に吊られるみたいな言い方ね」
 井之上鏡花が呟く。
「あたしは……頭が悪いから、どう言えば自分を正しく弁護できるのか解かりません。けれど、それでも人狼を道連れにできるんなら、吊られても構いません」
 立派な言葉と言うべきなんだろう。ただ、それも岡原悠乃の手が激しく震えていなければの話だ。
「見事な演技ね」
 呆れたように坂野晴美が言う。
「演技?」
 坂野晴美の言葉に岡原悠乃が聞き返す。
人狼様は演技が上手いのね。……それ演技でしょ?それとも本気で言ってるの?……狂人って、本当に狂ってるの?」
「ふざけないでっ!!演技が上手いのはそっちの方でしょ!人狼のくせに、どうしてあたしを人狼だと言うのよ!!!」
 円卓を叩き付け、岡原悠乃が立ち上がり叫ぶ。
 一瞬、岡原悠乃の剣幕に坂野晴美は驚き……笑みの形を作ってみせる。
「あなたが人狼、人外だと言う訳は……加納遙を村人だと言ったからよ」
 その言葉に、岡原悠乃は何度も瞬きをする。自分が何を言われたのか理解出来ない、そんな風に見えた。彼女はさっきまでの怒りを忘れ、ただ戸惑う。
「え?でも、だって……だって、村人じゃない」
「いいえ、違うわ。彼は人狼よ」
 岡原悠乃は少しだけムッとして、坂野晴美の詰め寄る。
「じゃぁ、証拠でもあるんですか?」
 まるで、小学生のような言い方だった。証拠なんかある訳がない。無いからこそ、誰を吊るかで悩むんだ。僕が考えていると、
「証拠ならあるわ」
 確たる自信を持って、円卓に投げられる言葉。
 全員の注目を集めたのは、その言葉を発したのは……井之上鏡花だった。
 彼女は自分が視線を集めている事を無視するように、小さく呟く。
「嘘」
 その言葉に、僕は反応しまいと全身に力を入れる。力を入れたまま井之上鏡花を真っ直ぐに見る。そして、井之上鏡花の視線も僕に向けられている。そして、
「彼は、嘘を吐いているわ」
 紡がれた言葉は、静かに円卓の上を流れて行く。流れ……そして、無音の静寂が訪れる。
 誰も口を開かない。その言葉の意味を、その言葉の意味合いを考える。
 乾いた、白々しい笑い声を田沼幸次郎が上げた。その短い笑いの後に続けて、田沼幸次郎が言う。
「それって……どう言う事かな?」
 その質問に、井之上鏡花は溜息で答える。
「別に。ただ……彼が人狼じゃなければ、私が人狼になるわね」
 井之上鏡花は、僕の顔を……死者の仮面を見ながら喋る。
「あなたの昨日の夢……その夢の中で出て来た小説のタイトルは『aquarius』じゃないかしら?」
 僕は何も言わない。言い掛けたが、途中で止めた。何かを言えば、正直に嘘だったと白状しそうだったからだ。
 何も言わない僕を、井之上鏡花は見詰める。
「何も答えないのね。……でも、いいわ。昨日、あなたが夢で見たのは、私よ」
 自嘲気味に井之上鏡花は囁く。
 誰も何も言わない。
 無言の重さに息が詰まる。冷たい汗が、死者の仮面の奥に流れる。
 長い沈黙の後に、
「何故……そう言い切れる」
 呟いたのは、本田総司だった。
「散歩道と小説のタイトル。一見どこにでもある風なイメージでしょうけど、その二つが重なった時……特別な意味を持つわ」
 退屈な話をするように井之上鏡花は呟く。
「あれは、私が十二歳の誕生日に贈られた小説よ。あの『彼女』が好きだった散歩道で、贈られた本よ」
 井之上鏡花は続けて言う。
「私は人狼じゃない。彼が嘘を言っているのは間違いないわ」
 井之上鏡花は、じっと僕を見詰めて言う。
「あれは、私の大事な思い出なの。その思い出は……このゲームに参加する為に、削り取られ、そして今また……あなたに踏み躙られたわ」
 淡々と井之上鏡花は呟く。呟いて、彼女はきっぱりと言った。
「私は、あなたを許さない。榛名も、あなたも、私は絶対に許さないわ」
 殺してやる。声に出していないのに、僕には彼女がそう呟いてるように聞こえた。
 違う!あれは僕の意志じゃない。僕は頼まれただけで……そう叫びたかった。だが、ここでそれを叫んだら、間違いなく本田総司が吊られる。今日じゃなくとも、近い内に吊られる日が来る。
 僕は、彼を吊らせたくなかった。彼は村人のはずだ。だから……、
「そう。僕は嘘を吐いた。それは」
「時間です」
 唐突に、榛名が言った。
 え?と、誰もが榛名を見る。
「夜になるまで、五分を切りました。本日の吊り先を決めて下さい」
 メイド達が円卓の面々に用紙を配る。
「御配りした紙には円卓に着く全員の名前が書かれています。そして、死んだ者の名は赤字で書かれています。自分と死者を除いた、残った者の名前の中から、本日の吊る者の名前をチェックして下さい」
 榛名は全員が用紙を書き込むのを確認し、集める。そして、集計を出した。
「本日の吊りは……」
 
  加納 遙  
0 田沼 幸次郎 ―坂野 晴美  
1 相楽 耕太  ―岡原 悠乃      
0 本田 総司  ―坂野 晴美   
0 古川 晴彦  ―相楽 耕太
0 大島 和弘  ―岡原 悠乃
4 坂野 晴美  ―岡原 悠乃
0 井之上 鏡花 ―坂野 晴美
0 志水 真帆  ―岡原 悠乃 
0 山里 理穂子 ―岡原 悠乃 
  藤島 葉子 
6 岡原 悠乃  ―坂野 晴美
0 田沼 香織  ―岡原 悠乃
  矢島 那美
 
「岡原悠乃様に決まりました」
 榛名が無情に言い、重々しく談話室の奥の扉が開く。
「ぁ……」
 薄暗い部屋の奥に、絞首台が黒々とした姿を現す。
 座っていた席から岡原悠乃が、無理矢理メイド達に立たされる。
「ぃ……い、いや」
 助けを求めるように彼女は円卓を見る。そこに座る面々を見る。
「助けて」
 小さな……小さな呟き。それは、
「いやよ。ねえ、助けてよ」
 徐々に大きくなり、
「助けて!!いやぁぁあああ!!!」
 叫びになった。
「ちょっと待」
 僕の肩に冷たい手を置かれる。
 え?と、反射的に振り返るそこには、無表情な瑠璃の顔があった。
「静粛に、御願いします」
 瑠璃ではないその呟き……しかし、その呟きは、瑠璃の唇から発せられている。馬鹿な、それを言うのは榛名のはずだ。あいつが僕を止めるなら理解出来る。でも、なんで瑠璃が!??
「助けてっ!お願いだから、お願いだから助けてよぉぉお!!助けてってば!!」
 岡原悠乃の叫びが聞こえた。瑠璃に肩を抑えられたまま前を見る。彼女は泣き叫び、さっきまで見せていた気丈さは、もうどこにも見えなかった。
「やめてよ!やめてってば。いやだって言ってるでしょ!いい加減にし」
 彼女の叫びは、顔に掛ける布を前に唐突に止む。
 ガクン、と膝から力が抜ける。しかし、左右からメイドに支えられた岡原悠乃は倒れる事も許されない。
「いやぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!いやっ!いやっ!いやっ!やなのぉ!!助けてっ、お母さん、やめてよ」
 木製の手錠がその手に咬まされ、布袋が顔に被せられる。
 彼女の篭った叫びが長く尾を引く。引きながら、彼女は絞首台へと引き摺られて行く。
「放してよっ!触んないでっ!!触るなってば!」
 絞首台の階段で足を踏ん張り、彼女は上に上がるまいと足掻く。が、それも長くは続かなかった。
 布袋の上から首を吊るロープの輪を通される。
「え?な、なに今の???ちょっと待ってよ。ねえ!待って、やだ。手を放さないで。やだやだ。何で一人にす」
 彼女が言えたのは、そこまでだった。
 足元の板を落とされ、ガタンと激しい音と共に彼女は吊られる。
 一度だけ、何かを蹴るように足を上げた。それっきり動かない。吊られまいと足掻いていたのが嘘みたいに静かな最後だった。
「では、夜が始まりますので、それぞれの部屋で御休み下さい。……くれぐれも、夜の間は部屋のドアを開かぬように御願いします」
 榛名が吊られた岡原悠乃を背景に頭を下げる。
 円卓の面々は言葉も無く席を立つ。席を立ち、自室へと戻って行く。そして、僕は……。
 ドサッと重い音と共に僕の肩は自由を取り戻す。見ると、瑠璃がその場に崩れていた。
「彼女には、少々刺激が強過ぎたようですね」
 榛名がゆっくりと僕に近付こうとしていた。
「メイド達に運ばせるとしましょう」
 榛名の指示でメイド達が瑠璃を部屋に運んで行く。それを見ながら榛名は呟く。
「さあ、貴方も部屋に篭っていた方が宜しいでしょう。人外となった身でも、夜の闇は危険ですから」
「瑠璃に何をした?」
 僕は震えを抑えて、榛名の前に立つ。
「何も、していませんが。……と言っても、納得はして頂けないでしょうね」
 ふざけるなっ!と叫びたかったが、榛名の存在が僕にそれを許さなかった。
「ただ……そうですね。あの時、あの場所から貴方を制止しようと思ったら、丁度そこに彼女がいたからです。では、どうでしょうか?」
 何か問題でも?と言いたげな調子で、僅かに首を傾げる。
「瑠璃には、二度と手を出すな」
「手を出す、などと……まさか、そんな」
 ところで、と榛名はほんの少し顔を近付けて聞いて来る。
「それは『お願い』ですか。それとも『命令』ですか」
 微妙に下がりながら、僕は答える。
「め、命令だ。瑠璃には手を出すな」
 その言葉を吟味するように榛名は目を閉じる。目を閉じ、薄い舌で唇を舐める。
「解かりました。御命令とあれば仕方がありません。彼女には、手出しをしないようにしましょう」
 榛名は誓うように右手を胸の前に上げる。
「では、夜の時間ですので……退席を御願いします」
 僅かに頭を下げ、部屋を出て行くように榛名は促す。それに従い、僕は談話室を後にする。背後で重々しく扉が閉じられる。
 廊下には、誰の姿も無かった。夜になり、与えられた部屋に戻ったのだ。
 僕は死者の仮面を付けたまま、独り廊下を歩く。遠く、狼の遠吠えが聞こえたような気がした。
 
 
【幕間】
 
 一匹の人狼がドアの前でじっと立っている。
「何で、あいつの部屋に行けないのよぉ」
 後ろで床に足を投げ出した人狼が文句を言う。さっきから何度試しても、人狼達はこの部屋に戻されいた。戻る度に、後ろの人狼が愚痴る。
 愚痴愚痴と五月蝿い、とドアを見詰める人狼は叫びたかった。いや、最初の内は「五月蝿い」「黙れ」「もう一度だ」と、くり返し言っていたが、今はもう言葉も出て来ない。ただ本気で思う……五月蝿い、と。
「なーんーでーなーのー」
「狩人のGJじゃないの」
 ポツリと呟いたのは、ベッドに腰を掛けた最後の人狼だった。すると、床に転がっていた人狼がキッと睨み付ける。
「何で狩人があいつを守ってるのよ!?あいつは何の役職も無い村人のはずじゃない。守るなら対抗のいない預言者でしょう」
「そんなこと知らないわよ」
 明確な返事を貰えなく拗ねたのか、床の上に人狼が大の字に転がる。
「そうよ。預言者を守るべきなのよ。共通者が二人とも潜伏を決め込んでいるんだから、守るんなら対抗のいない預言者しかないじゃない。そりゃ、別に霊媒師を守ってもいいけど……ってか、ただの村人を守るなんてバッカじゃないの?」
「ただの村人を守っているのなら、な」
 静かに呟いたのは、ドアを見続ける人狼だった。ドアを見たまま人狼は言葉を続ける。
人狼に襲われないのは、何も狩人に守られた村人だけじゃないだろう」
「じゃないって……?」
「……」
「……『狐』?」
 小さく頷きながら、人狼は振り返る。
 体重を掛けないようにドアに凭れ、彼は自身考えながら言うように話を始める。
「狩人のGJじゃなければ……『狐』しかいないだろう」
「いない……けど。でも、それって」
「滅茶苦茶ラッキー?でいいのかしら」
 身体を起こした人狼の言葉を、ベッドに腰を掛けた人狼が疑問系で後を継ぐ。
「んなの知らない」
 先程の仕返しとばかりに同じ言葉をベッドに腰を掛けた人狼に返す。再び大の字に転がり、頭を床にぐりぐりと擦り付ける。
「あいつが『狐』にしろ、狩人のGJにしろ、はっきりするのは……明日の朝以降だな」
 ドアに凭れ、人狼は天井を見る。
 ぶーぶーと床に転がった人狼は拗ね、ベッドに腰を掛けた人狼はほっと胸を撫で下ろす。
 安堵感に薄い笑みを浮かべる人狼を、床に転がる人狼がじろっと見る。
「明日吊られる人はいいよね?」
 にやり、と頬を歪め床に転がった人狼が笑う。
「止めておけ」
 ドアに凭れたまま人狼は呆れたように言う。
「だってそうじゃない。明日吊られるってことは、もう人の肉を喰わなくていいってことじゃない」
 天井に目を向け、床に転がった人狼は呟く。
「ズルイじゃない!自分だけさっさと抜けて。吊られて、ハイ、サヨウナラ。それで終わりなの?そんなのってないわ」
「止めるんだ」
 目尻に涙を溜め、人狼は唇を噛む。
 ベッドに腰を掛けた人狼は何も言わない。明日、明後日、どちらせよ吊られる事はもう決まっている。吊られるのは嫌だ。だが、反面それに安堵しているのも事実だった。
「ズルイよ」
 天井を見つめたまま、床に転がった人狼が言った。
 それよりも、とドアに凭れた人狼が口を開く。
「明日以降、『狐』候補であるあいつを吊らせないと、こっちに勝利は来ない。村人を全滅させても『狐』が居たら意味が無いからな」
 床に転がった人狼も、ベッドに腰掛けた人狼も、何も言わない。黙って今の状況を再分析する。
「吊られるリスクを背負って騙りの預言者を出すか。それとも役職が全員居なくなるのを待って、役職無しを無差別に吊るグレーランになるのを待つか」
 いや、とドアに凭れたまま人狼は呟く。
「グレーランを待っていれば人狼は全滅するだろう。……そんな消極的な戦い方じゃ勝てないんだ」
「共有者の騙りを出す?」
 その言葉に人狼は頷かない。
「出すのも有りかも知れないが……何か理由が、今日名乗り出なかった訳、そして今現在名乗り出る訳が必要だろう」
「揺さぶりを掛けるってのは?」
 床に転がった人狼が聞く。
「駄目だろうな。『狐』なら何があっても顔色を変えないだろう。それに狩人に守られている村人だったら薮蛇になり兼ねない。それよりも……」
「?」
「……いや、やはり明日以降だろう。『狐』にしろ、ただの『村人』にせよ、この状況でグレーを吊るように持って行かなければいけない」
 う〜と床に転がった人狼が不満の声を上げる。
「それとも……諦めるか?」
 どこか疲れた声でドアに凭れた人狼が訊く。
「絶対に嫌っ!」
 床に転がった人狼が反射的に言う。
「あいつらを全員絶対に殺す。一人も逃がさない。絶対、全員殺すんだもん」
「……そうだな」
 ドアに凭れたまま、人狼は自嘲的に笑う。そう、全員を殺すまでは人狼は全滅する訳にはいかない。その為に、ここにいるはずだ。
「さぁ、そろそろ自分の部屋に戻ろう。怪しむ者が居なくともそうするべきだ」
 凭れていたドアに向き直り、ドアノブを回す。
 明日……全員が生きたまま円卓に着く。それがどう判断されるのか。
 狩人のGJか?
 『狐』か?
 誰も居ない廊下に出て、人狼は自然と口元が歪むのに気付かない。その歪みが笑みの形なっても気付かなかった。
 
 明日の朝……本当の意味での狩りが始まる。