ありふれた午後の日常。僕は窓に映る自分の姿に、ほんの少し憂鬱になる。
「……騙された」
 ファッション誌の記事を鵜呑みにして髪をバッサリ切った愚か者が、窓の中の世界で前髪を気にして引っ張っている。いや、僕だけどね。
 記事に騙されて髪を切ったのも、切り過ぎた前髪を気にして引っ張っているのも、全部……僕だ。
 憂鬱だ。
 あーいうのはモデルの出来過ぎた顔だから似合うんであって、僕のような平均的な顔の造りでは……いや、やめておこう。自分の顔の不自由さを嘆いても何も変わらない。惨めになるだけだ。
 僕は前髪の短さを諦め、大袈裟な溜息を吐き……動きを止めた。
 ガシャッ。
 見慣れない女の子が銃を……ってか、ガトリングガンを構えて立っていた。
 コスプレか?でも、軽いプラスチック製のガトリングガンの玩具を持つにしては、ずっしりと重そうな持ち方だな。演技にしても上手すぎる。うん、きっと演技派のコスプレイヤーだな。
 僕は納得しながら、道を右に折れる。
 そう……天下の往来でコスプレをビシッと決めてるコスプレイヤーとお近付きになる気も無いし、そもそも玩具でも銃口を人に向けるもんじゃないと思う。正直、擦れ違うのも遠慮したい。
「チッ」
 舌打ちまでしてるし。ってか、今の舌打ちって僕にって、何だ???
 ドン!ドガゴゴガガガガガガガガガガガガガガッ!
 振り向いた僕が見たのは、ガトリングガンをこっちに向けて構えている女の子で、嫌な予感がして大急ぎで路地を曲がり掛けて、そのまま地面に貼り付いたのは僕だ。頭の上にパラパラと塀の破片が落ちている。
 ってか、誰の家か知らないけど、自分家の塀が吹っ飛んでるの見たら驚くだろうな。って、そんな場合かよっ!!
 僕は這いずるように立ち上がり、そのまま全力疾走をする。
「逃げるな!こらっ!!」
 後ろから少女の叫ぶ声が聞こえた。けど、普通は逃げるぞ?
「とまれっ!!とまらないと撃つぞ!嘘じゃないぞ。ほんとに撃つんだぞ!!!」
 いや、さっきは警告無しに撃ってたし。ってか、撃たれてるから逃げるんであって、絶対に止まってても撃たれる自信があるぞ、僕は。
 ドガガガガガガガガガガガガガッ!!
 咄嗟に横に飛んで銃弾を避ける。ってか、やっぱし撃ってるし!
「何なんだよ、いったい」
 頭を抱えて僕は叫ぶ。
 ズシャァっと音がして、ガトリングガンと共に女の子が、僕の正面に出る。ちなみに、僕は……郵便受けで名前を確認する。よし、山本さんだな。山本さん家の玄関前にいる。横にはチャッピーの犬小屋だ。
 チャッピーが吠え狂う中、少女がガトリングガンを両手で構えて、僕の正面に立つ。
 青を基調にしたブレザーの制服を着た少女だ。
 チェックのスカートが似合うね。とか、普段の僕なら心の中で思っただろう。決して口にはしないけど。
「あ、あのさ……人違いじゃないかな?僕は始めて君を見るし、そもそもいの……」
 生命を狙われる、と言わなかった。例え、銃弾が雨あられと降ろうとも、僕は殺される覚えなんか無い。
「アタシは瀬戸内夏海。アンタは……藤崎岳で間違いないよね?」
「いや、違う。人違いだ。僕は……すいません。藤崎岳です」
 僕は素直に藤崎岳である事を認めた。だって、この子、目が本気なんだもん。人違いだとか言ったら、「目撃者は排除します」とか言って撃ちそうだし。
「19××年××月×日生まれ?」
 僕は少女……夏海の質問にこくこくと頷く。そして、少女は大きく深呼吸をして、こう言った。
「アタシは魔法少女の……見習いです。あなたをルルイエの関係者として排除します」
「見習い?いま見習いって言ったよね?」
「ルルイエの関係者として、強制排除します」
 ガシャッとガトリングガンを構える魔法少女。ってか、排除から強制排除に切り替わってるんですけどっ!!
 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
 舞い散る山本さん家の玄関。頭を抱えた逃げ出す僕。チャッピーも身を隠すんだ!
 戦場にはジンクスがあって、一度砲弾の落ちたところには二度と砲弾は落ちないらしい。
 そう、僕は一度銃弾が抜けた場所……即ち、山本さん家の玄関を逃げ道に選んだ。って、何だよ、弾来まくりじゃん!戦場のジンクスはどうした?何か間違いがあったのか???そうか、砲弾に比べ、ガトリングガンの銃弾は小さい。同じところに銃弾が落ちなくても、的には十分に当たるんだ。
 って、的は僕じゃないか!!当たってたまるかっての!
 幸い、夏海の小さな身体だとガトリングガンは大き過ぎるようで、銃弾は一箇所に集め切れていない。その隙を縫って、僕はお邪魔だろうが、山本さん家の玄関から台所へ、そこから勝手口へと逃げ出した。勿論、鍵を掛けてね。
 裏口から外へと逃げず、僕は玄関口へと逃げる。
 そこで、僕を追って家の中から銃弾が撃ち出されるようじゃ駄目だけど……そんなこともなく、元の路地へと逃げ出す。
 ふぅ……と、溜息を吐いたのは、路地から更に離れた国道沿いに出てからだった。
 しかし、どうなってるんだよ、この国。ガトリングガンを持った少女に追い駆けられるとか、普通は無いだろ?
 とにかく、警察に電話でもしとくか、と後ろのポケットから携帯電話を出し、そこで僕は気付く。
 国道に自動車が一台も走っていないのである。いや、それより、あれだけの騒ぎなのに……誰も、出て来なかった。
 誰も……いない?
 その事実に驚くべきなのに、僕はある事が気になっていた。
 ルルイエの関係者。
 ルルイエは……クトゥルー神話では聖地の名前だったはずだ。その関係者として、僕が狙われる?
 誰もいない街中で僕は呆然とする。
 いや、待て。ちょっと待てって。僕は確かにクトゥルーをモチーフにした小説を書こうとしている。けれど、それが関係したって言えるのか?
 ズシャッ!っと、音の消えた街中でガトリングガンを構える音が響く。
 そこにいるのは、青い制服の少女。
 記憶の中で蘇る異界の神話に関わりあった者の変死の記事。その中に、蜂の巣というのも憚れる、無数の銃弾を受けた死体が無かったか?
 ゆっくりと……ゆっくりと動く世界の中で、僕は青い少女を振り返る。
 
 
 
 
あなたが魔法少女☆になったらー】が面白そうだったからやってみた。
結果は……「魔法少女瀬戸内夏海は青をパーソナルカラーとしたガトリングガンが武器の魔法少女です。」
って、武器はガトリングガンですか?ガトリングガン魔法少女???
……書かねば!
 
って、適当に書きました。