モザイク
 
 
 書き終えた手紙を風が飛ばし、私は筆を置いた。
 数枚は椰子の枝に捕らえられ、残りは……海まで届くだろう。
 出すつもりで書いた物ではない。
 手元に残った手紙に心を悩ます事のないようにしてくれた、気紛れな風に感謝すべきなのだ。
 
 
 よく晴れた空だった。
 水平線に見える入道雲は白く、海はモザイクに似た銀の照り返しに飾られていた。
 
 
 私は、さっきの手紙の内容を思い出し……苦笑した。
 恋文。ラブレター。懸想文。
 名前を変えてみても、何も変わらない。
 ふと、「伝える事がないなら紙に書くのも良いかな」と思い、気持ちに任せて筆を遊ばせていただけだった。
 
 
 意外だったのは、自分の中の彼女への想いの激しさだった。
 若さだけなら、これほど激しく相手を求める事は無いだろう。
 いや、出す事の無い手紙だからこそ、躊躇い無く激しくなったのかも知れない。
 そして、伝える事の無かった想いだからこそ、多くを語りたくなったのだろう。
 
 
 何もない午後の一時……終った恋を思い出す日もあると言う事だ。