愛噛
 
 
 長い髪を撫で下ろすように、僕は君を抱き寄せる。
 震えているのは、君の肢体……僕の胸。
 微かに冷えた君の頬を肌に感じながら、その髪の甘い香りに包まれていく。
 ゆっくりと呟くように動く君の唇に、僕の中の獣が騒ぎ出す。
 
 
 凍える指先で頬に触れ、その瞳を覗こうとしたけれど、君は何かを待つように目を閉じていた。
 僕は触れるように君の目蓋にキスをして、もう一度、君の顔を見つめる。
 不思議そうに顔を上げる君と痛みに耐えるように微笑む僕。
 そして、見つめ合ったまま僕等は唇をかさねた。
 怯えるように触れ合う唇。渇きを癒すように絡み合う舌。喰われたような月の下、僕等は二匹の飢えた獣だった。
 
 
「愛してる」
 擦れた喘ぎの中に紡がれる言葉。消えていく想いを重ねるように繰り返す君の呟き。
 白く長い首を反らせながら、柔らかな胸を貪る僕を抱きしめた。
 言葉だけでは伝わらない想いに肌を重ね合う。
 僕等の愛は狂っているのか。
 
 
 濡れた足を絡ませた肌の熱さに戸惑いながら君は泣いていた。
 今、この痛みが僕らを繋いでいる。
 涙の痕を追うように僕の指先が君の頬に触れる。
 君の目蓋に触れる。唇に触れる。
 
 
 そして、君は僕の指を噛む。