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錆びた天使
無様に散らばった星が輝いていた。
空には雲は無かった。
地平線を包み立つ雲は霞み、その彼方にある淡い光を呑み込んでいた。
星は……重なり輪郭を無くした星達は、光の濃淡と化し、ここに星座の意味は無かった。
風は凪ぎ、静かに天に帰ろうとしていた。
草原に隠れ住む虫の音は、無秩序に夏の夜を歌い、波のような静寂を伝えてくる。
背に当たる岩。
ここに点在する岩達は雄弁である。
昼の太陽の激しさを語り、夜の静寂と厳しさを囁き、生と死の無意味を教えてくれる。
星と空気に視線を置き、僕は背の痛みに生を感じ、死の使いを待ちながら目を閉じ歌う。
白い少女。
背の翼は鋼鉄の軋み、歯車の関節と鉄線の筋。
錆びた羽は朽ち果てるように降りそそぐ。
死は優しく誘う眠りに似ているのか。
苦痛と懺悔に汚れた魂に安らぐ事を許すのか。
黒き翼を持つ鳥―終焉を叫ぶ者―が空を舞う。
少女の白い手が僕の頬に触れる。
恐怖の叫びを殺し、自らの手で口を塞ぐ。
狂ったように背を反らし、見開いた眼窩を、迫り出す眼球の中を、黒い虫が踊る。
膨れ上がる腕。痙攣する足。のたうつ腹。奪われるように全てを吐き出す肺。
毛細血管は破れ、骨格は質量を無くし、脳は白く沸騰し、細胞は砕け散る。
唇を重ねた錆びた翼の天使は淫らに笑う。
首筋を滑る指先。
髪を梳き、胸元に顔を埋め、濡れた舌で這い、腹に頬擦り、不思議そうに腰に触れ、手は遊び、口腔の奉仕を楽しむ。
唇に残る熱さを惜しむ少女は薬指を噛んだ。痛みに繋がれる喜び。
濡れた音。獣の叫び。
少女の牙は小さく、僕は空を見ていた。
希薄なる意義に生の意味は無く、死を受け入れる理由も無い。
孤独とは、生と死の狭間にある存在の無意味である。