■
盃
まだ青い空の下、ぼんやり浮かぶ、あの月を酒の肴に呑もうじゃないか。
おいらとあんたの間には、徳利一つと盃一つ。
浮世の愚痴でも言いながら、膝突き合わし、呑もうじゃないか。
湿っぽいのは苦手だが惚れた女の話しもいいねぇ。
月を浮かした盃を見て愛でながら、呑もうじゃないか。
おいらとあんたの間には、徳利一つと盃一つ。
すすきを揺らすあの風が火照った体を撫ぜて行く。
ぽつりぽつりと呟きながら、おいらはあんたに酌をする。
月に掛かったあの雲に惚れた女を思い出す。
そらそら呑めと言いながら、あんたはおいらに酌をする。
月とすすきと浮世と女。
徳利一つと盃一つ。
明日の夢も、昨日の愚痴も酒の肴に呑んじまう。
あんたとおいらの間には何にも無いから飲み明かそう。